「来期からはこの業務を担当してくれない?」
なんか、また仕事が増えた。とぼとぼと歩く帰り道。今日のことを思い返していた。
会社で働いて、早10年ちょっと。上がらない給料に反して、仕事は増えていく。ここ数年、会社はずっと人が足りなかった。私に増える仕事は、力を認められているというより、人が抜けた穴を必死に埋めるためにある。そう感じていた。
溺れそうだ。そんなことを仕事中に感じることが増えていった。ちょっとでもこの場を離れたいという気持ちが、どんどん大きくなっていた。
そんな時、友達からの連絡が来る。
「妊娠しました」
いいなあ。この子は会社から離れられるんだ。おめでとうより先にそんなことを思ってしまった。自分を猛烈に責めた。
疲れている。今日もとても疲れた。そんな時、私は何か文章を書きたくなる。書いている間の時間が好きだ。今日は何を書こうか。誰に見せるでもないけれど、ラジオADをしていた日々のことを書き出していた。
「へえ!見せたらいいやん」
ラジオの話を書いている。ある日、友達とお茶をしていて、そんな話をしたらこう返ってきた。
その友達は本がとても好きな子だ。ある日、一緒に遊んだ帰り道、駅でバイバイと別れようとすると「ちょっと待って。今日、本持ってくるの忘れてん!買ってくるわ!」と、まるで水を忘れたのと同じぐらいのノリで、本屋さんに走っていった。
そんな彼女にこの話をしたら、見せたらいいやん、ということになった。
私は昔から文章を書くのが好きだ。小さい頃は、いつか自分の名前がクレジットされた本が出たら素敵だな…と妄想することもあったが、物語やフィクションを書く力がない。作家にはなれないから、そんな夢はとっくに諦めてしまっていた。
「自費出版というのがあってね」
彼女はそう教えてくれた。自費出版という方法がある。今はZINEというものも流行っている。結構自由やで。いけるんちゃうかな。
自分の書いた文章を自費出版する。そんなことができるのか。やってみたい!とテンションが上がった。その日は2人とも興奮して、カフェからファミレスへと移り、7時間近くおしゃべりを続けた。
本を作るんだ!そう意気込んだ私は、ラジオ局での日々を綴り出す。しかしいつも趣味で書いている文章や、昔に書いていた放送後記は長くても3,000字程度。長尺な文章を書くのは初めてで、気がついたら前後の繋がりや、説明を入れることに必死になっていた。
第一稿として書き上げた20,000字程度の文章。それを本好きな彼女に、書いてみた!と軽い気持ちで送った。すると彼女から返事が来た。
「時間をかけてしっかり読むね」
自分のことなのに、背筋が伸びた。
それからしばらく経ってから、彼女に会うことになった。目の前には紙が置いてあった。私の書いた文章が印刷されて、赤ペンで沢山注釈が入っていた。非常に驚いた。
「まずは友達として、すごくラジオの仕事を頑張っていたんだなあって思った。でも、本好きとしては、偉そうかもしれないけど分かりにくい気がする」
ダメージを食らった。やはり私が書く文章は良くないのか。しかし、よくよく話を聞くと彼女は「つまらない」とは一言も言っていない。
彼女の言葉は、文章の技術うんぬんではなくて、もっと違うところにあった。
「なんとか説明しようとするのに重きが置かれすぎているのかな。もっと好きなように書いて。書いている人の感情が見えた時が、ワクワクするんやで」
そんな言葉で道が開けた気がした。私はプロでは無い。プロでは無いからこそ、自由気ままに書くことができる。
そこから、話が止まらなかった。
そもそも自費出版を考えてんけどさ。作って、販路を考えて、出荷して。お金も時間もかかる。別にブログで公開したからといって、後から本にしてはいけない訳ではない。
でもブログに書くなら今までと同じすぎる気もする。自分の中で大切にしていたエピソードやから、気軽にネットに出すのは勿体無いと思うのは余計なこだわりなんかな?
そもそもこの話って、読んだ人に何が伝わるんやろう。書きたいから書いた、そんな文章って面白いんか?
そんな話を延々と何時間も続けた。
「分からん!!!!!」
最終的に2人で分からなくなった。けれど、書きたい気持ちは止まらなかったから、その熱を大事にしたいよね、ということになった。まずは公開をしてみよう。その後どうなるかは分からない。いつかこれがまとまって本になったら素敵だな。叶うか分からない夢に、こっそりワクワクしながら。
ラジオの世界に足を踏み入れた時もそうだった。右も左も分からない私に、沢山の人が面白い世界を見せてくれた。
今回も同じだった。モヤモヤをなんとかしたくて、1人で文章を書いていただけだった。誰に見せるつもりもなかったはずなのに、気が付けば敏腕な編集者が寄り添ってくれていた。
振り返ってみると、私はそういうことが多い。どうしていいか分からなくなった時に、いつも誰かに手を差し伸べてもらっている。
認めざるを得ない。私は多分、運が良い。
そんな感じで綴ったラジオでの日々のことでした。最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。