死ぬ前に書きやがれ

文章を書きたい30歳会社員。音楽とお笑いが好きなので主にその話。時々、感じた別のことも。

「狂いたきゃ狂え」なんて簡単に言うな -映画『JOKER』を観て-

べらぼーに怖がりだ。


小さい頃、ホラー映画のCMを目にした日。
ストーリーを知らないくせに妄想がどんどん膨らみ、夜になると電気を煌々と点けないと眠れなくなった。

恐らく一般的に「怖い」でないものも怖い。
時代劇とか。ダメです、苦手。
「人に暴力を加えてはいけない」「死ぬの怖い」という圧倒的な倫理観からなのか、怖い。

親子共々SMAPファンでして、小さい頃キムタク主演のドラマ『忠臣蔵』を観たんです。
それがすんげートラウマで。
討ち入りってなに?切腹ってなによ?
あかんて、そんなんしたら。あかんてー。

夢の中で、地球は何回も壊れるし、よく分からん何かに感染するし、よく分からん何かと闘っているし。
起きた時に「現実めっちゃええやん…」とほっとすることがしばしばある。



ホラー、グロ、怖い。
サスペンス、ミステリー、怖い怖い。

少しでも怖そうな要素があるものに、過度に影響を受けてしまう。
そんな性質は、お恥ずかしながら28歳になっても残り、今なお色んなものを怖がり続けている。
しっかり自覚があるので、なるべく影響を受けないように、「怖い」を避けながら生きてきた。


そんな怖がりが
映画『JOKER』を観た話。


『JOKER』はR-15指定作品。
普段ならR-15の時点で遠ざけリストの仲間入り。てか、ピエロメイクの時点でさようなら。
でも、なんだか異常に気になってしまった。周りの方々の絶賛の嵐にも、どんどんどんどん押される背中。

それでもやっぱり怖くて、事前に見た人に綿密な聞き込み調査を実施しました。
(めちゃくちゃLINEした。回答してくれた人、ありがとう)
すると「ホラーではないけど、ジョーカーに引きこまれて落ち込む怖さがある」と聞きました。


「あ、ジョーカーに感情移入して、凹む話なんや。“可哀想”って思うのか。引きずりこまれるのか」


そんな話だと理解し、めちゃくちゃ対策練って行きました。
仕事終わりでなく、心安らかな休日に。
気心知れた友人と、映画館を出ても太陽が出ているようにお昼の回を。
凹まないように、怖くないように。

映画スタート。

冒頭のやるせなくも美しいジョーカーの表情にに早くも心鷲掴みにされつつも、気合を入れ直してバリアをはる。
映画の世界に入り込まないように、自分を現実世界にくくりつける。

「やっぱり歯列矯正はじめると、人の歯並び気になるな」とか
「仕事としてもここまでやつれて痩せるにはどうしたらええんやろな」とか

必死に茶々を入れながら観ました。
凹まないように、怖くないように。


観終えました。
結果、あまりジョーカーに引きずり込まれませんでした。

むしろ
ジョーカーが暴力性に目覚めた瞬間
「あかん!そんなことで人撃ったらあかん!もっと我慢してくれ!」と思いました。

“そんなことで”

そんなことでは、全然ないんですよ。
社会から孤立して、他人に断絶されて。
信じていた人の、まさかの真実とか。
悲しいよ、絶望だよ、苦しいさ。
狂うさ。

事前に「ジョーカーに引きこまれて落ち込む」と忠告してくれた方々は、きっとジョーカーに感情移入できたんだと思う。“可哀想”と思ったんだと思う。

“そんなことで”と思ってしまった私は、めちゃくちゃ冷たい奴なんか?とちょっと凹みました。
凹んで色々考えた結果、「“可哀想”よりも“狂う”ことへのハードルが異常に高いのではないか」という結論に至りました。



狂うことへの憧れと怖さ。
現実世界で言うとなんでしょうな。

浮気してもたー!とか?
家族と縁切ったー!とか?
疲れたから仕事辞めてもたー!とか?
貯金0円なってもたー!とか?

狂うという表現だと強い気がしますが、要するに「一般的と言われるレールから逸脱すること」ですかね。
怖いんですよ、そんなん出来たことないんですよ。仕事辞めた時も、ばりばり転職先用意して辞めましたよ。


たまたまなのか周りの友達とか、結構できる人が多い気がして。
「やってもたー!」て報告、結構耳にします。
大丈夫?とか、話聞くよ?とか心配しつつも、ちょっと羨ましかったりするんですよ。
ちゃっかり清々しい顔してたりするんですよ。

人生でどん底を経験したことがある人の話。
聞けば聞くほど深いんですよ。
そこまでの深みや重厚さ、やっぱり経験した人でないと出せないですよ。
意図的になるんじゃなくて、「私もなりたい」
なんてそんな失礼な気持ちはなくて。
あちらはなりたくてなっている訳ではないのに。


でも
少しでも「狂えた」人って
「やってもたー!」ができる人って
やっぱり魅力的なんですよ。
重いし、分厚いし、深いんですよ。

でも、でもですね。
それが出来ない人の辛さって
なんで語られないんだろうか。

仕事があっても、家族がいても、恋人がいても、毎日することがあっても、生活が成り立っていても
ずっと付き纏うこの「虚しさ」
一体どうすればいいんですか。
狂えば勝ち?狂えばいいの?
そしたら楽になれるんですか?

そんな簡単に出来ないっすよ。
出来ないよ、羨ましいよ。
仕方ないから、そんな「虚しさ」も仕方ないなと受け流しながら生きていきましょう。



人を撃つジョーカー。
狂ったんじゃなくて「狂えた」ジョーカー。
思い返せば、凄い良い顔をしてた気がします。
全てから抜け出せた様な。
これはある種、解放の物語。

そんなことを思いながら観終えた。
怖がりがちょっとだけ頑張ったら
思っていなかった結論に着地しました。
怖い、怖い言ってないでもっと色んな作品観れる様になりたいな。
逃してしまっているもの、きっと沢山ある。


にしても、
R-15指定作品だからと言って、観に来ている人全員心強いと思うなよー。
映画の予告、全部怖かったわ。
ずっと目伏せてたわ。ふざけんなー。