死ぬ前に書きやがれ

文章を書きたい30歳会社員。音楽とお笑いが好きなので主にその話。時々、感じた別のことも。

ちょっとすみませんおじさん

私の勤め先。
ビルのまあまあ上の階に
オフィスがある。

オフィスに向かうのに
毎朝高層用のエレベーターに乗る。
待ち列に並ぶこと約5分。

待っていた人たちが
エレベーターの箱の中に
どんどん入って行って
ぱんぱんに詰め込まれて
いざビルの上階へ。

満員電車に乗ったあとに
わざわざ5分待って
ぱんぱんのエレベーターに詰め込まれて
今日も「さぁ!仕事がはじまりますよー!」

そんな感じでエレベーターの中
結構どんよりしている、気がする。



エレベーターは1番下の停止階に到着。
するとぱんぱん詰めの一番後ろの方から
空気を切り裂くような大きい声が。


「ちょっとすみませんー!」


その声にあわせて
エレベーターの中にいる人が
半分降りて道を開ける。
そして、1番奥に乗っていた
おじさんが降りていく。
1度降りた人々はまたエレベーターに乗り込んでさらに上へと進んでいく。

1番先に降りるのに、奥に入り込んでもうたんか。
そう初めは思っていたが
後々この出来事が、毎朝続くようになる。



エレベーターに乗るたびに聞こえる

「ちょっとすみませんー!」

「ちょっと降りますー!」

「ちょっと申し訳ないー!」



この声を聞くたびに
この声で一旦エレベーターを降りるたびに
腹が立ってくるようになった。

1番はじめに自分が!!
降りると分かっているなら!!
乗り込んだときに、奥に詰めず!!
サイドに寄って降りるのに備えろや!!!!
わざとしてんのか!?
 

命名: ちょっとすみませんおじさん


次第に列に並んだ途端に
“ちょっとすみませんおじさん”を
探す習慣が身につく。
姿を見つけると
目視で自分と“ちょっとすみませんおじさん”が
同じエレベーターになるか推し量る。
「同じになる」と気付いた時点で
ブルーになるし、イライラしだす。



突然ですが、仕事って不思議ですよね。

私だけかもしれませんが
仕事中のイライラ、後の自己嫌悪が凄い。
私、こんなに性格悪かったかなぁと
凹みながら帰る日々がつづいている。

鳴りまくる電話にイライラして
続々届くメールにイライラして

なんでこの人は
「もっと値引しろ!!」て怒ってるんやろ?
自分のお金な訳でもないのに。

なんでこの人は夕方に
「明日の朝9時にお願いします!!」て
引越し1軒程の物流を依頼してきたんやろ?
プライベートの引越は、普通何ヶ月も前に依頼せん?

なんで当たり前のように
難しいことを頼んでくるの?

そんなイライラが積み重なり
ため息が増え、口調がきつくなり
そして帰り道に凹むという毎日。



凹みながら帰っているときには
冷静に考えられるんですよね。

値引強要も、もしかしたら社内で
詰められて依頼してきてるのかも。
翌朝の無理な物流依頼も
きっと社内の人に振り回されて
渋々頼んできたんかな。



ある時から
”ちょっとすみませんおじさん”に
遭遇しなくなった。
見かけないとなると、自ずと罪悪感が募る。
結構、年いってそうやったもんな。
定年退職したんかな。
退職間際の人にあんな腹立てて申し訳なかったな。

あのおじさんも
きっと運悪くエレベーターに
毎回早めに乗り込んでしまって
降りる時に本当に「申し訳ない」と思ってたのかも。
何も言わず人を押し除けて降りるより
声をかけてる、いい人やん。




人の気持ちを推し量って
イライラする前にちょっとだけ冷静に。
そうやって、今日も頑張ろう。

自分に言い聞かせて
エレベーター列に並ぶと
久々に自分より少し後ろにいる
”ちょっとすみませんおじさん”を見つけた。

よし。すぐイライラしない。
しかも後ろに並んでるから
私より扉側に乗るやん。
普通にすっと降りはるやん。


そんなことを考えながら
エレベーターに入って
乗り込んでくる人を迎える。

まだまだ乗れるスペースが余ったところで
”ちょっとすみませんおじさん”が
乗り込んで…

来なかった。
乗ってこなかった。

止まった。足、止めた。
乗れたやん。まだ乗れたやん。
扉が閉まった。
上にあがるエレベーター。
瞬時にイラっとした。

次に来たエレベーターに
1番手で乗り込んで1番奥まで詰めて
きっとまた言うてる。

「ちょっとすみませんー!」

なんなん。やっぱりわざとなんか?
なんなん。ちょっとすみませんおじさん。